







我が家のムッスリ顔の老猫は、7月上旬で15歳を迎えました。
生後まもなく拾われてきたので、正確な誕生日は分かりません。
3年前から糖尿病を患い、1日2回のインスリン注射は欠かせません。
血糖値が乱高下しやすく、コントロールには苦戦していますが、どうにか「ハッピー糖尿病」を維持してきました。
ところが、昨年の暮れ頃から徐々に状態が悪化。
高血糖の状態が続き、血液検査では炎症反応や貧血も。歩く姿にも力がなく、いつもトボトボしています。
もともと運動嫌いな子でしたが、さらに拍車がかかり、ゴハンとトイレ以外は、ほぼ寝ている毎日。
そして、15歳になった途端、怒涛の入院ラッシュ。
まずは、膵炎で1週間入院。
あからさまな食欲不振と元気消失で、ニブい私でも「これはマズイ」と分かるレベル。
それが、退院してみると、今までのノソノソ歩きがウソのように、トントンと軽い足取り。
若返りました?
「年のせいだと思ってたけど、膵炎でしんどかったせいなんだね…」
「元気になって良かったねー」
なんて家族で話していた、その1週間後。
今度は、血栓症で再び一週間入院。
いつも通り朝ゴハンを平らげ、くつろぎタイムに入るか…と思った、その時。
突然、今まで聞いたことないような、不安そうな鳴き声をあげました。
見ると、両脚が完全に脱力したようになり、立ち上がろうとしては右へ左へと倒れています。
まるで、腰が抜けたみたい。
両後肢が麻痺し、激痛のため大声で鳴き続けています。
入院を繰り返し、回を重ねる毎に重症レベルも上がっていく15歳。
何なの?
チャレンジャーなの??
血栓症は、血管内にできた血栓(血液の塊)が血流を詰まらせることで、筋肉が強い酸欠状態になり、猛烈な痛みが襲うそうです。
治療としては、まず麻薬系鎮痛薬と抗凝固薬を使いながら、血栓を溶かす強力な薬を使うか、それとも、猫自身の血流回復力に賭けるか。
選択を迫られました。
医師の説明では、血栓溶解剤を投与すれば回復の可能性は上がるが、必ず治る保証はなく、副作用によって急死するリスクも高い。
投与直後から72時間を乗り越えられるかどうかが大きな山になる、とのこと。
ただ、投与してもしなくても、いずれにしろ予後は厳しく、無事に退院できる見込みは6割ほど。
脚は麻痺したままになることもあれば、壊死して断脚になることもある。
高齢であることに加え、糖尿病や膵炎の既往症もある。血栓溶解剤を使うのは、かなりリスクが高い。
しかも、使用できるタイミングは発症から6時間以内。
「どうしますか?」
投与するのか、しないのか。
メリットやデメリットを詳しく調べる時間も、冷静に考える時間も、家族に相談する時間もない。
しかも、「自分の選択次第で、ムッスリ猫が死ぬかもしれない」と思った瞬間から、医師の説明を理解できているのか、怪しい。
頭の中は高速回転しているけど、ただグルグルと空回りしてるだけ。
迷いに迷う私。
答えが出てこない…。
そんな中、医師から一言。
「この子は発症時刻が明確に分かっていて、今は発症から3~4時間以内のゴールデンタイムです」
そうか。
いつ発症したか分からなければ、投与したくてもできないケースもある。
そして、投与を決断。
すぐに同意書にサインすることになったのですが、動揺のせいか、文字がよく読めませんでした。
……老眼のせい?
投与後72時間は、ただただ心配で、「早く三日、経ってほしい」と祈るだけ。
そして、ムッスリ猫は峠を乗り越え、1週間ほどで無事に退院。
後ろ両脚は完全に麻痺したままで、ただの「くっつけた棒」のようにダラリとぶら下がっていました。
そこに、生命の気配はありません。
でも、とにかく命がある。
それだけでいい。
退院してからは、脚をマッサージすると、痛いのか嫌がったり怒ったり。
「いつものように怒る元気が出てきて、お母さんは嬉しいぞ」
その甲斐あってか、退院3日後には脚に少しずつ力が入るようになり、マッサージを嫌がると、その脚で押し返してくるほどになりました。
実は、血栓溶解剤の投与を決断した後も、退院するまでの間、私は悶々と調べ続けていました。
「投与してもしなくても、生存率や回復率に明確な差があるというエビデンスはない」
とか、
「現在では、多くの病院で血栓溶解剤を使用しないことが第一選択肢になっている」
とか。
いろいろな意見が出てきて、
「リスクを冒してまで、投与しなくても良かったのでは…?」
と後悔しかけました。
でも、あの時は、
「できることがあるのに、何もしてあげられなかった」
と後悔する日がくることのほうが、怖かった。
「できるだけのことはやった」
と納得できるようにしておきたかった。
結局は、自己保身かもしれないなぁ…。
そして今、脚の回復が比較的早いのは、あの薬のおかげだった、と信じたい。
もちろん、もし結果が違っていれば、命を「賭け」に出してしまったことを、私は激しく後悔し、自分を責めていたはず。
ただ、運が良かっただけ。
運が良くて、良かった。
とはいえ、まだ歩けるようにはなっていません。
後ろ脚を引きずりながら、前脚だけでほふく前進するような感じです。
当然、ふだん使っている高さのトイレには入れなさそう。
ということで、ペットシートを敷いた上に猫砂を撒き、即席「バリアフリー・トイレ」を準備。
しばらく見守っていると、ズリズリと這いながら、自力でトイレに入っていき、無事に用を足せました。
ふぅっ、これで一安心。
我ながら良いトイレを用意できたぞ。
…と思ったら。
2回目は、なぜかフツーのトイレに向かったムッスリ猫。
ほんの一瞬、目を離した隙を突かれました。
前脚はトイレの中に見事イン。
だけど、後ろ脚は盛大にトイレの外側に取り残されたまま。
威風堂々とした姿勢で、もらしてしまいました。
もらしながら、固まってる後ろ姿。
まるでこう言っているようでした。
「私、もうデキると思ったんだけど…」
