見届けた「一人の下校」

5月、最後の週の金曜日。
4年生の息子が、学校からの道を、初めて一人で帰ってきた。
今まで、行きも帰りも、毎日ずっと、必ず、夫か私が同伴してた。

迷子になるんじゃないか?
車の事故に遭わないか?
不審者につけ狙われないか?

不安の種は、いくらでも並べられた。
でも、一番大きな理由は、息子自身が「一人がコワイ」と言っていたから。

たしかに、学校までの道のりは、子どもにしてはちょっと遠い。
おまけに、まぁまぁの田舎なので、帰り道は途中から人通りも少ない。

それでも4年生にもなれば、学童チーム以外の子たちは、ほとんどが一人で通学している。
というか、1年生の頃から一人で通学している子もいる。

(沖縄では、班で登下校する風習がない。たいていは、親が車で送迎するか、子どもが一人で通う。
1年生が一人で歩いている姿を見ると、私はちょっと不安になるけど…)

とはいえ、うちもいつまでも同伴できるわけじゃない。
だから、3年生の後半から、徐々に準備を進めた。

夫が登校を見守るときは、見送りの距離を少しずつ縮めていった。
今学期は学校の塀の端まで、今月は学校近くの交差点まで、今週は、いつも猫がゴロ寝してる坂の上まで…。
順調に一人での距離を伸ばしていき、今では、家のそばの角から夫が見送るだけになった。

一方、帰りはというと、私の体調のこともあって、歩いての送迎はキビしかった。
なので「車で学校まで迎えに行く」が定番。
息子も「行きはヨイヨイ、帰りはコワイ」なのか、「学校集合が絶対!」が続いていた。

けど5月に入り、「学校近くのコンビニで待ち合わせ」にシフト。
「ついでにお菓子を買って帰ろう」というエサで、まずは学校外へおびき出すことに成功。

そこからは早かった。

3回目のコンビニ待ち合わせのあと、息子から「自分が学校を出発する頃、母は家を出発して、途中で合流する」案が出た。
それを2回経験したあと、突然「お迎え、いらないかも」と。

朝の夫の見送りは半年かけて距離を縮めながら今も続いているのに、私の帰りの「お迎え短縮戦略」は、たった半月で終了してしまった。

そして、この金曜日。
梅雨の合間、少しだけ暑さが和らいだ午後。
ふと、家の前で伸び放題になっている雑草に気がついた。

「草むしりでもしようかな」

虫よけスプレーを忘れたと気づいた頃には、すでに虫に刺されまくっていた。
構わず、一心不乱に草を引っこ抜いていると…

ふと、道の角から小さな人影が見えた。
見慣れた服の男の子が、ポテポテとした足取りで、こちらに向かってくる。

「おかえり」
私は声をかけた。

「ただいま」
小さな声が返ってきた。いつも通りの、でもほんの少し、何かが滲んだような声。
小さな笑顔には、照れたような、はにかんだような表情が浮かぶ。

子どもは、ある日突然、一歩を踏み出す。
その一歩の奥に、どれだけ小さな準備を積み重ね、どれほど大きな勇気を忍ばせたか。
この日、私は見届けたんだ。

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