息子が小学生になった頃、たまに気が向くと『お手伝い』と称して、包丁を使いたがるようになった。
しかし、我が家には子供用包丁なんてシャレたものは置いてない。
「せっかくなら、包丁の使い方を『正しく』教えなきゃ」と、つきっきりで指導しようとすると、つい熱が入り過ぎてしまい…
「もういい」
息子はそそくさと去っていった。
『使い方』の『教え方』に失敗した母。
おかげで、息子がお手伝いに気が向くことは、めったになくなってしまった。
そんな息子は、オレンジ大好き。
ある日、自らオレンジをもってきて、「切ってい~い?」と聞いてきた。








正直、この時も心配だった。
手を切りそうで危なっかしくて、見ていられない。
でも、『切ってあげる』だと、成長の芽を摘んでしまうに違いない。(教育論の聞きかじり)
ここは手を出さす見守るのが正解。(ドヤァ)
「いいよ」
息子に包丁を渡し、私は背後から、生温かく見守ることに。
「左は猫の手だよ!」
「持ち方はこうだよ!」
手は出さない。口は出す。
「知ってる」
息子はサラリと返し、刃先に全集中。
我ながら五月蠅いな…と自主規制。
息子が包丁を指先に当てそうになったり、突然振り上げたりするたび、後ろで私は手をグーパーしたり、背が伸びたり縮んだり。
一人で大忙し(笑)
ぐったり疲れ果て、老けこんだ母。
ようやく終わった…と安堵したその時、息子が一言。
「お母さん、食べていいよ」
丁寧に切られた、少しいびつなオレンジを、サッと差し出した。
本当は私、オレンジはあまり好きじゃない。
でも、ちょっと大げさに喜んで見せ、一切れつまみ上げ、じんわりと甘酸っぱさを噛みしめた。
そして、かわいすぎる息子を、丸ごと食べてしまいたかった。