夕食後、リンゴを出した。
雑にカットしたものだけど、フルーツ大好きな息子はすかさず、「わー♡」と良好な反応。
かわいいじゃないの。
「おいしーね」
「ねー」
と同意し合いながら、リンゴ愛を噛みしめる我が子。
最後の一切れになった時、息子が聞いてきた。
「お母さん、もっと食べる?」
「ううん、もういいよ。好きなだけ食べて。ありがとう。」
とか言いながら。
母は内心、カンドーで身もだえ。
私なんぞ、三人兄妹の末っ子として、肉一切れを巡って熾烈な戦いを繰り広げていた身にしてみれば、一人っ子のこの「どうぞ」感は信じがたい。
「一人っ子は我慢する経験がないから、何でも独占しないと気が済まなくなる」なんて世間では言ってませんでした?
何これ。逆じゃん。
ひとり占めどころか、めっちゃ分けっこしてくるじゃん。
心の余裕よ、豊かさよ。
「汝、ひとつの果実を得たとき、それをもって隣人と喜びを分かち合え。」
(出典:旧約聖書…にありそうだけど、多分ない)
我が子とは思えない、優しさが培われているんだねぇ…(じーん)
息子はおずおずと、でも嬉しそうに、最後の一切れをほおばった。
たまらん。
尊い。
その途端。








「あっ」
夫が声を上げた。
「お父さん、まだ一つも食べてないのに…」
おっとー!
夫!!
そーいや息子、「食べる?」って私には聞いてくれたけど、夫には聞いてなかったな(汗)
平静を装いつつ、夫に「リンゴ、もう一個切ろうか?」とさりげなく(?)聞いてみた。
「いいよ、いらない…」
言いながら、目に見えて「しょんぼり」アピールしてる。
拗ねてる。
50歳のオッサンが。
言葉には出さないけど、分かってほしい。
構ってほしい。
弟かよ。
この人、私以上に大家族育ちのはずなのに、なぜか生存競争に揉まれてない感が強めなんだよなぁ…。
息子はしばらくフリーズした後、残りのリンゴを、静かにはみ始めた。
果物一つから、家族の構図が透けて見えた、夕食後のひとときだった。
【次回予告】
「お父さんにも優しさを分けてあげて」
(ウソ)